包装容器に使われる高分子フィルムは1種類(単層)で使われることは滅多にありません。通常、共押出やラミネーションによって多層化(積層)されて使用されています。
例えば、スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどで購入できるチーズのパッケージの一部に は[外側] PA (6) /EVOH-32 (3) /PA (6) /Tie/LLDPE (50) [内側] の5層の積層フィルムが使用されています。上述の構成中、カッコ内はμmで表した厚みを意味し(ただし、Tie/LLDPEは2層で50μm)、それぞれの略語は以下のような樹脂を示しています。
PA:
ポリアミド樹脂(ナイロン6)
EVOH-32:
エチレン組成32mol%のエチレンビニルアルコール共重合体
Tie:
接着樹脂
LLDPE:
線状低密度ポリエチレン
このような多層フィルムの酸素透過係数は(1)式を用いる事により計算できます。 (1)但し、
(2)Pは多層フィルム全体の透過係数,Lは多層フィルムの全厚み,
は
番目の層の厚みと気体透過係数です。
では、(1)式を使ってチーズの包装容器の酸素透過係数を計算してみましょう。使用されている各フィルムの酸素透過係数を表2-1に示します。接着樹脂はLLDPEとして扱いました。表2-1には慣習的に使用されている単位[cc 20µm / m2 day atm]と今までのバリアー入門で示してきた単位[cm3(STP) cm / cm2 s Pa]の酸素透過係数が併記してあります。今回は計算がしやすい[cc 20µm / m2 day atm]の単位系で計算しました。
酸素透過係数 | ||
---|---|---|
[cc 20µm / m2 day atm] | [cm3(STP) cm / cm2 s Pa] | |
PA | 501) | 1.04×10-15 |
EVOH-32 | 0.272) | 5.74×10-18 |
LLDPE | 31703). | 0.662×10-13 |
1) Global Packaging News No.28, August, 2 (2004) (25℃, 65%RH)
2) 日本合成化学測定値 (20℃, 65%RH)
3) Polymer gandbook 4th edition, Page VI/546 (25℃, 65%RH)
酸素透過度 | |
---|---|
cc /(m2 day atm) | |
PA | 83 |
EVOH-32 | 1.8 |
LLDPE | 1270 |
多層フィルム | 1.76 |
フィルムの厚みで換算していない酸素透過度で比べると、表2-2のようになります。 多層フィルムの酸素透過度は1.76 [cc /(m2 day atm)]となり、ほとんどEVOH層が有する性能と同じであることが解ります。このことは、多層フィルムのバリアー性は大部分EVOH等のバリア層で決まり、ポリエチレンのバリアー性への寄与はほとんど無いことを意味しています。
中級編ではポリマーや多層フィルムのバリアー性の計算方法を述べました。次回からの上級編では、拡散などについて数学的な取り扱いを入れて述べたいと思います。