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ガスバリア入門講座 基礎編5

高分子の種類と気体透過係数

前回は、気体透過は溶解→拡散→脱着の過程があること、プラスチックはモノマーが多数繋がった高分子から出来ており、気体は高分子の非晶部分を拡散していくことを話しました。

ところで、高分子の場合、モノマーの種類を変えることにより様々な高分子を合成することが出来ます。
図5-1はいろいろな高分子の酸素透過係数を示したものです。

図5-1 いろいろな高分子の酸素透過係数
1):25℃(高分子と水) 2):30℃ (ポリマーハンドブック) 3):23℃ (ポリマーハンドブック)
4) 20℃ (日合測定値),無印:25℃(ポリマーハンドブック)

この図からも解るように、高分子の種類によって百万倍も酸素透過係数が変わります。この中で、エチレンビニルアルコール共重合体はマヨネーズボトルに使用されており、その厚みは約10μmです。ポリエチレンでこれと同じだけの酸素バリア性を得るためには、37cmの厚さが必要です。これほど厚いボトルでは、マヨネーズを絞り出すことは出来ません。このことからもエチレンビニルアルコール共重合体は如何に優れたガスバリア性材料であることが理解されます。

高分子は、化学構造からポリアミド系やポリエステル系などに分類されます。ビニル系高分子もそれらのひとつであり、CH2=CXYの化学式をもつモノマーから合成されます。ここでXやYには水素(H),塩素(Cl),水酸基(OH),メチル基(CH3),フェニル基()などが入ります。Yが水酸基のものは、直接合成できないので、一旦、ポリ酢酸ビニルを合成してから、酢酸基を水酸基に変化させます。X,Yの原子または官能基の種類と高分子の名称を表5-1に、また、図5-2にはビニル系高分子の酸素透過係数をまとめておきます。エチレンビニルアルコール共重合体のYがOHまたはHとあるのは、1分子中にランダムにOH基またはH原子があることを意味しています。ここに示した原子または官能基の内、OH基やCN基,F,Cl,は電気的に中性ではなく、プラスやマイナスに分極しており、極性基といわれます。酸素透過係数を極性基の観点から捉えると、極性基を有するものほど酸素透過度が小さいことが解ります。

表5-1 ビニル系高分子の種類と官能基

名称 X Y
低密度ポリエチレン H H
ポリスチレン H
ポリプロピレン H CH3
ポリ酢酸ビニル H OCOCH3
ポリ塩化ビニル H Cl
ポリフッ化ビニル H F
ポリアクリロニトリル H CN
ポリ塩化ビニリデン Cl Cl
エチレンビニルアルコール
共重合体
H H
または
OH
ポリビニルアルコール H OH

ビニル系高分子の構造

図5-2 ビニル系高分子の酸素透過度

2):30℃ (ポリマーハンドブック),3):23℃ (ポリマーハンドブック) 4):20℃ (日合測定値),無印:25℃(ポリマーハンドブック)

 

極性基を持つ高分子では分子内に電荷の偏りがあるので、プラス−マイナス間で引き合って分子間に働く力が強くなります。分子を引き離すのに必要なエネルギーのことを凝集エネルギー密度といい、これらの分子の凝集エネルギー密度は高くなります。

図5-3

図5-3は凝集エネルギー密度と酸素透過係数の関係を示したものです5)。このように、凝集エネルギー密度が高いものほど、酸素透過係数は小さくなります。これは、分子間力が強いものほど気体分子が高分子鎖を押し広げにくくなり、気体透過性が低下すると理解できます。

ところで、高分子の用途は凝集エネルギー密度によってほぼ決まっています。凝集エネルギー密度の低いものはゴムとして、中くらいのものがプラスチックとして、凝集エネルギー密度が高いものは繊維というようにです。図5-3中の凝集エネルギー密度の高いポリエステルやポリアミド,アクリロニトリル,ポリビニルアルコールは何れも繊維として使用されています。それぞれ、ポリエステル繊維,ナイロン繊維,アクリル繊維、ビニロン繊維と言い換えると衣服や工業用に使用されている身近な繊維であることが分かるでしょう。

ガスバリア性材料と繊維では全く異なる用途ですが、凝集エネルギー密度という点から見ると意外な共通点がありました。前回、ゴム風船の空気が抜ける話をしましたが、ガスバリア性に優れたゴム風船が存在しない理由はもうお解りでしょう。

次回は気体透過度と関係の深い自由体積について述べます。

参考文献
1) 高分子と水,共立出版 (1995)
2,3) Polymer handbook 4th Edition,John Wiley & Sons,Inc. (1999)
5) ガスバリア性・保香性包装材料の新展開,東レリサーチセンター 発行 (1997)

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