Home > ガスバリア入門講座 > ガスバリア入門講座 基礎編6

ソリューション

ガスバリア入門講座 基礎編6

気体透過係数と自由体積

プラスチックを構成しているのは分子量の大きな鎖状の分子です。図6-1は非晶領域中で鎖状の分子が集まっている様子を模式的に示したものです。この図の赤楕円で示すように、分子が集まったときに間隙ができます。この間隙のことを自由体積といいます。分子鎖は熱振動を行っているため、この自由体積は常に変化しています。

近年、陽電子消滅法により、高分子材料の自由体積を直接測定できるようになってきました1)。普通の電子はマイナスの電荷を持った粒子ですが、陽電子はプラスの電荷を持っています。この陽電子をプラスチックに入射せせると陽電子はプラスチック中の電子と相互作用をして消滅します。消滅の時間が自由体積の大きさと関係しており、消滅時間から自由体積の大きさが求められます。

図6-1 高分子鎖の集まった状態
図6-1 高分子鎖の集まった状態

図6-2はいろいろなプラスチックの自由体積をまとめたものです。高分子の種類によって大きく異なっていることが分かります。図6-3はPEとPVAの自由体積と酸素分子の大きさ2)を比較したものです。PEの自由体積は酸素分子3個分位の大きさがあります。

図6-2から酸素透過係数が小さいプラスチックほど自由体積も小さいことが分かります。それでは、酸素透過係数と自由体積の関係についてみていきましょう。

拡散の自由体積理論と溶解度が高分子の種類によって大きく変化しないという仮定をもとにすると自由体積の逆数と気体透過係数の対数とは直線関係があるといわれています。


図6-2 いろいろなプラスチックの自由体積

1) 高分子論文集, 55710-714(1998)
2) Macromolecules, 33,990-996(2000)
3) J.Polym. Sci., 37,1749-1752(1999)
4) Macromolecules,32,1930-1938(1999)
5) Macromolecules,1999,32,1147-1151
6) 日本合成化学測定値


図6-3 PEとPVAの自由体積と酸素分子の大きさ
(図中の数字は直径。酸素分子の大きさは粘度からの値)

図6-4は自由体積の逆数と酸素透過係数の関係を示したものです3-7)。多少のバラツキはありますが、自由体積の逆数と酸素透過係数の対数には直線関係があります。

自由体積は間隙の大きさですが、この量は分子の運動性を反映するパラメーターとして捉えた方が理解し易いと思います。すなわち、分子間凝集力が強いほど分子間の相互作用が強くなり、分子の動き易さが低下します。その結果、自由体積は小さくなります。また分子間凝集力が強いと気体分子が拡散していくときに、分子鎖を押し広げ難くなるために、気体透過係数も小さくなります。このように考えると、分子間凝集力,自由体積と気体透過性を互いに関係付けて理解できます。

図6-4  自由体積の逆数と酸素透過係数の関係

図6-4 自由体積の逆数と酸素透過係数の関係

EVOH-29:エチレン組成29mol%エチレン-ビニルアルコール共重合体
EVOH-44:エチレン組成44mol%エチレン-ビニルアルコール共重合体
LDPE:低密度ポリエチレン,NY6:ナイロン6,PC:ポリカーボメート
PDMS:ポリジメチルシロキサン,PMP:ポリメチルペンテン
PSF:ポリサルフォン,PVAcポリ酢酸ビニル

次回は温度による気体透過度の変化について述べます。

参考文献
1) 李 洪玲, 氏平 祐輔, ぶんせき, 1, 11 (1998)
2) ムーア物理化学,東京化学同人 (1974)
3) 繊維学会予稿集(2002)
4) Polymer handbook 4th Edition,John Wiley & Sons,Inc. (1999)
5) J.Polym. Sci., 37,1749-1752(1999)
6) Macromolecules, 33,990-996(2000)
7) 日本合成化学測定値

Top