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ガスバリア入門講座 基礎編7

酸素透過係数の温度依存性

酸素透過係数は温度が高くなると増加します。図7-1は各種高分子の酸素透過係数の温度依存性を示したものです。ガス透過係数の温度依存性は、絶対温度の逆数に対してガス透過係数の対数をプロットすると直線になります。

酸素透過度は温度が高くなると、増加する理由を理解するためには、高分子の分子運動が温度によってどのように変わるのかを知っておく必要があります。前にも述べましたが、高分子は長い鎖状の分子から出来ています。この鎖はその温度での平衡位置を保ちながら熱振動しています。

各種高分子材料の酸素透過係数の温度依存性

図7-1 各種高分子材料の酸素透過係数の温度依存性

EVOH-29:エチレン組成29mol%エチレンビニルアルコール共重合体
EVOH-44:エチレン組成44mol%エチレンビニルアルコール共重合体
OSM:二軸延伸MXD-6(メタキシレンダイアミン)フィルム
PVDC:ポリ塩化ビニリデン
ONY:二軸延伸ナイロンフィルム
PET:ポリエチレンテレフタレート
*1:日本合成化学測定値
*2:ガスバリアー性・保香性材料の新展開,東レリサーチセンター発行 (1997)

図7-2 分子の熱振動

図7-2 分子の熱振動

図7-2は27℃での炭素数100個の炭化水素の分子の熱振動を示したものです。各フレームの間隔は0.1ps(ピコ秒,1ps=10-12秒)です。炭素数100個ではポリエチレンに比べると遙かに低分子であり、また、実際の高分子では結晶や分子の絡み合い,分子間相互作用の影響を受けもっと複雑かもしれません。しかし、このような簡単なモデルは分子の熱振動を視覚的に理解するうえでは有用だと思います。

この熱振動は低温では小さいですが、徐々に温度を上げていくと、熱振動が激しくなっていきます。気体分子はこの熱振動によってできる間隙(自由体積)をくぐって拡散していきます。高温になればなるほど、より激しく熱振動するので、気体は拡散しやすくなります。その結果、温度が高くなると気体透過性は増加します。

ガス透過係数やガス拡散係数の対数を絶対温度の逆数に対してプロットしたとき、直線になると、その傾きから透過や拡散の活性化エネルギーを見積もることが出来ます1)。活性化エネルギーとは気体が透過や拡散するときに越えなければならない障壁のようなものに相当します。図7−3はいろいろな高分子材料の酸素透過係数と透過の活性化エネルギー,酸素の拡散係数と拡散の活性化エネルギーの関係をまとめたものです。

酸素透過係数や拡散係数が小さいものは、透過や拡散の活性化エネルギーが大きいことが分かります。この理由は、酸素透過係数が小さな高分子は分子間に働く力が強い傾向があり、そのために気体分子が高分子中を拡散していくときに高分子を押し広げるのにより多くのエネルギーが必要であると考えると理解しやすいと思います。

図7-3 酸素透過係数と透過の活性化エネルギー(左)と酸素の拡散係数と拡散の活性化エネルギー(右)

*:日本合成化学測定値,無印:Polymer handbook 4th Edition,John Wiley & Sons,Inc. (1999)

EVOH-29 エチレン組成29mol% エチレンービニルアルコール共重合体
EVOH-44 エチレン組成44mol% エチレンービニルアルコール共重合体
PVAC ポリ酢酸ビニル
A-PET 非晶ポリエチレンテレフタレート
LDPE 低密度ポリエチレン
PEMA ポリエチルメタクリレート
PTFE ポリテトラフルオロエチレン
PVDC ポリ塩化ビニリデン
PVC ポリ塩化ビニル
NY6 ナイロン6
PP ポリプロピレン
HDPE 高密度ポリエチレン
NR 天然ゴム

次回は酸素透過度と湿度の関係について述べます。

参考文献
1) 高分子と水,共立出版 (1995)

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